滅びを招く苦い根(第二サムエル17章1-2)

主なる神に油を注がれ、若いときにペリシテの巨人ゴリアテを倒し、神の霊に満たされ、神の御心にかなったダビデはイスラエルの王として人々にも慕われました。しかし、彼の犯した神への背信によって、剣はダビデの家から離れない、という預言のとおり、息子のアブサロムの反乱によって、都エルサレムを落ちのびる状況を招くに至りました。

このアブサロムの反乱に加担したのは、ダビデの側近アヒトフェルでした。

アヒトフェルはもともとダビデの非常に近しい参謀でした。当時、「アヒトフェルの助言は、人が神のことばを伺って得ることばのようであり、アヒトフェルの助言はみな、ダビデにもアブシャロムにもそのように思われました。」(第二サムエル記16章23)
数々の戦いですぐれた戦略を助言し、ダビデが周辺の敵を打ち破ることに大いに貢献したことは疑う余地がありません。


ダビデの息子アブサロムがダビデに反乱したときアヒトフェルは、アブサロムに加担しました。都を落ちたダビデに替わってエルサレムに入城したアブサロムの参謀として、アブサロムの天下を民に知らしめるために、ダビデの建てた宮殿の屋上に、天幕を張り、全イスラエルの目の前で、ダビデの残したそばめたちのなかに入ることを進言しました。
このことによって、ダビデは公に辱めを受け、ダビデとアブサロムの亀裂は修復できないものとなりました。

詩篇55編で、ダビデはこのときのことを詠んで、「破滅は町の真中にあり、虐待と詐欺とは、その市場から離れません。
まことに、私をそしる者が敵ではありません。それなら私は忍べたでしょう。私に向かって高ぶる者が私を憎む者ではありません。それなら私は、彼から身を隠したでしょう。
そうではなくて、おまえが。私の同輩、私の友、私の親友のおまえが。
私たちは、いっしょに仲良く語り合い、神の家に群れといっしょに歩いて行ったのに。 」(詩篇55編11-14)と、深い嘆きを吐露しています。


この箇所でも、アヒトフェルは、自分の手勢一万二千を選び、都を気落ちして落ちていったダビデを追って、自らダビデを襲い、首をはねるという作戦をアブシャロムに進言しています。

ダビデの側近中の側近であったアヒトフェルが、反乱したアブサロムに加担しただけでなく、若いときから人々に慕われたダビデにたいし、何故このように執拗に辱め、命をつけねらうことに執念を燃やすようになったのでしょうか。


ペリシテ人との戦いで初代の王サウロたちが戦死した後、ダビデは油注がれヘブロンで約7年間王となり、30歳のときイスラエル全土の王として油注がれ、ユダとイスラエルの全土を治め、周辺の敵と戦い、ほとんどの敵を平定し、エルサレムの都を建造し宮殿を建てました。
ダビデは、多分50歳くらいのとき、アンモン人との戦いに、直属の将軍ヨアブを戦いの前線に送り、自分はエルサレムの都にとどまりました。そんなある日、何気なく街を眺め、ある家の屋上で美しい女性が水浴びをしているのを目に留め この女性バテシバを宮殿に引き入れ姦淫によって彼女はみごもり、このことを知ると、罪を覆い隠すため、夫ウリヤを戦死させました。そして、戦士を手厚く弔うふりをして、喪の明けたときに、未亡人となったバテシバを妻の一人として宮殿に迎え入れました。
このダビデの行為は、人々の目からは、自分の戦士たちを思いやり、厚い弔いと未亡人となった兵士の妻を召しいれる恵み深い王のように見えました。しかし、神はダビデの卑劣な罪を見過ごされませんでした。 

神の前に罪を告白したとき、神はダビデの罪を赦されましたが、この罪のために、ダビデの生涯には大きな傷跡が残り、「剣は、いつまでもあなたの家から離れない」という宣言どおり、息子のアブシャロムによって、王位転覆を狙う反乱が引き起こされるにいたりました。
ダビデの姦淫と計画的殺人は、ダビデ自身の家族に悲惨な問題を引き起こしただけでなく、側近
の参謀であったアヒトフェルの裏切りをも招きました。


アヒトフェルにとってダビデの姦淫の相手、バテシバは孫娘でした。(アヒトフェルの子エリアム、 第二サムエル記23章34、あれはヘテ人ウリヤの妻で、エリアムの娘バテ・シェバ第二サムエル11章3、)
このことを知るとき、アヒトフェルが、単に反乱をおこしたアブシャロムに加担しただけでなく、ダビデを執拗に辱め、殺意をいだいた理由がわかります。

愛する自分の孫娘が、自分の仕える王に犯され、しかも孫娘の夫ウリヤを卑劣な手段で戦死させられたことを知ったとき、きっとアヒトフエルの心には、王ダビデに対する根深い恨みと殺意が生まれ、心にダビデに対する苦い根が芽生えたのでしょう。


わたしたちの人生にも、信頼していた近しい人に裏切られるような状況に遭遇することがしばしばあります。信頼し、心を開いている人から突然裏切られることほど、心が傷つき苦い思いになることはありません。

わたしたちが心に苦い根を持つとき、それは、わたしたちの肉体にも影響を及ぼします。「 陽気な心は健康を良くし、陰気な心は骨を枯らす。」(箴言17章22)と言っているように、心に苦味を持つと現実に胃の痛みを覚えたり、健康状態を損ねることがあります。
そればかりか、魂が悩むとき多くの人がそれによって汚されるということが起こります。


聖書は、心に苦い根を持つことについて、何度もわたしたちに警告をしています。

「すべての人との平和を追い求め、また、聖められることを追い求めなさい。聖くなければ、だれも主を見ることができません。
そのためには、あなたがたはよく監督して、だれも神の恵みから落ちる者がないように、また、苦い根が芽を出して悩ましたり、これによって多くの人が汚されたりすることのないように,」(ヘブル書12章14-15)
「 神の聖霊を悲しませてはいけません。あなたがたは、贖いの日のために、聖霊によって証印を押されているのです。無慈悲、憤り、怒り、叫び、そしりなどを、いっさいの悪意(苦い思い)とともに、みな捨て去りなさい。
お互いに親切にし、心の優しい人となり、神がキリストにおいてあなたがたを赦してくださったように、互いに赦し合いなさい。」(エペソ書4章30-32)
「万が一にも、あなたがたのうちに、きょう、その心が私たちの神、主を離れて、これらの異邦の民の神々に行って、仕えるような、男や女、氏族や部族があってはならない。あなたがたのうちに、毒草や、苦よもぎを生ずる根があってはならない。」(申命記29章18)


わたしたちがこの世で生きてゆくとき、心に苦い根を持つような状況に陥ったり、もし自分の側に特別な落ち度や理由のない場合でも親しいと思っている人から裏切られる経験をすることが、しばしば起こります。
その場合、わたしたちは、自分の正当性を主張し、相手の不当なやりかたに深い恨みや、心に苦い根を持ち、自分で報復をしようとします。

どんなに相手が不当であって恨みとなる仕打ちをされたとしても、そのことがわたしたちの心の苦い根となることは、聖霊が悲しまれることです。
自分の側に相手を恨んだり、心に苦い根を持つ正当な理由があったとしても、その苦い根を深く心のなかに持ち続けるかぎり、滅びに至るのは報復をしようとした相手ではなく自分自身です。

アヒトフェルが、優れた戦略家であったことは間違いありません。しかし、アブシャロムに進言した彼の策略は退けられ、ダビデが密かにアブサロムに送り込んだもう一人の参謀ホシャイの意見が取り入れられたために、彼は、自分の家に帰り、家を整理して首をくくって自殺をしました。(第二サムエル記17章23)


わたしたちは、自分の努力や、自分の力では、自分を裏切り傷つけた人を赦すことは出来ません。
心に苦い根を持つような状況を本当に解決することができるのは、主に信頼し、内に住んでくださる聖霊の働きに自分の心を委ね、神の正しい裁きに任せることしかありません。

「 思い違いをしてはいけません。神は侮られるような方ではありません。人は種を蒔けば、その刈り取りもすることになります。
自分の肉のために蒔く者は、肉から滅びを刈り取り、御霊のために蒔く者は、御霊から永遠のいのちを刈り取るのです。」(ガラテヤ書6章7-8)


イエスが弟子たちに教えられた、通常 「主の祈り」といわれている祈りは、「 私たちの負いめをお赦しください。私たちも、私たちに負いめのある人たちを赦しました。」というものです。
さらに、「もし人の罪を赦すなら、あなたがたの天の父もあなたがたを赦してくださいます。
しかし、人を赦さないなら、あなたがたの父もあなたがたの罪をお赦しになりません。」(マタイ福音書6章12、14-15)とも、言われています。

聖霊の助けなしに、わたしたちに負い目のある人、報復されて当然の人を赦すことはできません。しかし、わたしたちが聖霊の助けに委ねることを選び取るとき、イエス・キリストの流された血が、わたしたちの犯した神に対する償いきれないほどの負い目を赦すものであったことを深く知り、いっそう神との交わりを深め、この人生でも永遠にあっても神からの平安と喜びを、より一層大きく受け取ることができるのです。

神はわたしたちが犯した神に対する償いきれないほどの負い目をキリストの流された血によって赦してくださいました。
わたしに負い目のある者を赦す度合いによって、神がわたしの罪を赦されている度合いの大きさを知ることができます。

わたしたちが心から神に祈り、聖霊の働きにわたしたち自身を委ねるという選びをするとき、神はわたしたち自身では不可能なことも、可能にしてくださいます。 



 
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